2004.9.7

まず最初に。
「フ−ルB」にわざわざ足を運んで下さった皆様、
日テレジャンボリ―や、灼熱のサマソニ、雨(あるいは今にも降りそう)のア−トタウンつくばで
足を止め、投げ銭(投げ物)して下さった皆様、本当にありがとうございました。
そして、それに関わったスタッフの方々、力をかしてくれた人々に、感謝しています。

ところで。
秋になりかけている。 これはみんなも感じていることだろう。
このペ−ジのテ−マは「今」なのだが、過ぎた夏を振り返るのも今しか出来ない作業なので、
あえてふりかえってみようと思う。


私がこの夏していた事のひとつに、公演のための稽古がある。
他の人はどうか知らないが、私の場合、稽古は終了間際しか盛り上がらない。
その他の時間は、煙草を吸ったり、あらぬ妄想を抱いたり、
ひどい時には買って行ったご飯を食べて一服したのち、半ば意識的に寝くさったりもする。
他人の稽古場をのぞいたことはないが、もしかするとこういう人は存外多いのかもしれない。
それはともかくとして、稽古終了後はだいたいその日のうちで最も鼻息荒く、
よってまっすぐ家に帰れず、やみくもにそこらをハイカイすることになる。


そして、稽古場近くの思索スポットのひとつで、私はハイカイお婆さんNo.2に出会った。
すでにひとつ隣の路地のNo.1の存在は知っていたが、No.2がいるとはしらなかった。
初めの頃私たちは、お互いに牽制しあっていた。
というよりも、私のほうが、No.2が出てくると、それをしおにその場を立ち去ったりしていたのだ。
しかしNo.2のほうも、私のところまで行こうか行くまいか、
いつも迷っているふうではあった。


そんなある夜、私は珍しく稽古場のところまで戻ってきて、
灯りの消えた建物の窓ガラスに自分の姿を映し、変な動きの研究をしていた。
そこはこんな時間に通る者もいない(いたとしても私の姿を見たら避けるだろう)、
暗く、奥まった場所であったので、私はけっこう集中していた。
そして、何かを取ろうと後ろを振り返った瞬間、「うあぁあっ!」と、おもわず叫び声をあげた。
私の背中から1mと離れていない地点に、いつのまにか老婆が立っていたのだ。
その夜はけっこう風の強い夜で、老婆は風になびいていた。
しかも風対策のためか、頭にほっかむりしていて、顔の上半分が影になり、
ぱっと見この世のものとも思えなかったのだ。

しかし一瞬ののち、私は彼女があのNo.2であることに気づいた。
そして、彼女は私のふるまい(夜中の妙な行動、叫んだことなど)を、
怒っているのかもしれないと考えた。
「な、なんでしょう?!」私はかなりパニックになりながら聞いた。
「風がね、」No.2はいきなりきりだした。 「あるからね、今日はいいよね。」
「は、はい。ありますね、かなり。」 なんとかこの場をクリアしなくてはならない。
「涼しくて、いいですよね。」 私はおもねるようにつけくわえた。
しかし老婆が放った次の言葉に、私はしばし絶句した。
「風が、無いからね。」  ・・・なに?! ない?! あるって言ったのに! 「暑いよね、今日は。」
なるほど。 私は妙に納得する。
たしかに、風は常にあるわけではなく、たまにぴたっと止まって、
その間はむしろいつもより蒸し暑いくらいである。
「はい、もっとあるといいですよね。」
「でも今日は、風があるからね。」 ガ−ン。 負けんぞ。 それにけっこうそのとおりだしな。
「ええ。助かります。ほんと」 また、無いと言われる前にこの場を去らねば。


私はいささか焦りながら、自転車のハンドルを握った。
「それじゃ、おやすみなさい。」 「おやすみなさい」
ほっとして行きかけたとき、背中からNo.2が 「ごめんね」 と言った。
え―――っ、そりゃないぜ。
そっちが当然のように話しかけてくるから、私もいつしかその気になっていたのに。


謝られてしまったことがくやしかったのか、その夜以来、
私はむしろ積極的に彼女の目に入るようにアピ−ルし始めた。
昼練を始めてみて判ったのだが、彼女は昼間もそこらを流していた。
私が外で煙草を吸っていると、やはり唐突に目の前に現れ、本題からいきなりきりこんでくる。
そして私たちは、今日は風があるとかないとかいう話をメインに、
この町はいいとか悪いとか、
この地域センタ−はうるさいとかうるさくないとかいう禅問答のような話をして、
お互い 「じゃあ」 と、あとくされなく別れることができるまでに至った。


しかし、公演終了以来、稽古場には行っていないので、
また元のぎくしゃくした関係に戻ってしまったかもしれない。
また台風が近づいているから、風婆さん(No.2改め)は、うずうずしているかもしれない。
ちなみにNo.1は布団婆さんと呼んでいる。
布団と風はエリアが違うので、互いの存在は知らないと思う。
この夏私は、
全国のハイカイ老人がバトンを渡しながら日本を縦断する様を、生まれて初めて妄想した。


私がなんとなく彼女らに好意を持ってしまうのは、
将来私もそういう感じの婆さんになるような気がするからにちがいない。
足腰がある程度丈夫でいられればだが。
それに彼女らはすでに私のことを、それぞれ布団女、水筒女と呼んでいるかもしれない。
呼んでりゃいいのに。


やたらめったらな超大作、いかがでしたでしょうか。
次回は短く。

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